今となってはどうでもいいことのうちの一つだが、今ひとつ消化しきれないことがある。
いつ頃からか、母と親しくしている男性が家に来るようになっていた。
母は数年前に離婚をしていたので、新しい男性が出来たとしてそれは不思議ではなかった。
一緒に食事にも行ったことあるし、旅行に行ったこともあった。
ある日、母から「もんちゃん。みんなでおいしいご飯食べに行こか。」と言われた。
私が着替え始めると、「こっちの服着て行き」など、普段は服装に関して口を挟まない母が、その時に限って指定してきた。
それは滅多に着ることのない、ちょっとオシャレなブランド物の服だった。
こころなしか母も気合いが入っている。
「なんでこれ着るの?」
「えーとこいくねん」
そんな会話だった気がする。
着慣れない服に身を包みながら車に乗り、たどり着いたのは地元で有名なホテル。
あれよあれよという間に大きな長机が1つ置かれた宴会場というには小さな、でも食事を摂るには大きな部屋に通された。
そこにはおばさん、おじさん、いとこたち、それに見たことの無いおじさんとおばさんが数人ずついた。
「もんちゃんは、ここに座っとき。」
そう言い残して、母はいわゆるお誕生日席に座った。
母の隣にはあの新しい男性がいた。
その時に私はようやく気づいた。
結婚式だ。
時間になると次々と食事が運ばれてきて、見たこともない料理が目の前を通り過ぎて言った。
しばらくすると、向かいに座っていた知らないおじさんがマイクを持って席を立ち、
「ではここで、お互い再婚同士ですからね、指輪の交換ならぬ、ネックレスの交換をしましょうか。」
と言い、母と隣の男性が立ち上がり、今まで見た事もないような照れ笑いを浮かべてネックレスをお互いの首に付け合った。
きっと私も、誰も見た事がないような顔をしていたと思う。
なぜ母は、「結婚式(モドキ)をするから行こう。」と言わなかったのだろう。
なぜ母は「おいしいごはんを食べに行こう」と、私にウソをついたのだろう。
なぜ母は前もって言わなかったのだろう。
なぜ母は出かける直前に私に声をかけたのだろう。
私が反抗期だったからだろうか。
私に文句を言わせる隙を与えないようにするためだったのだろうか。
私をなんだと思っているのだろうか。
素直に言ってくれれば、私だって素直に祝うことが出来ただろうに。
あの日が未だに消化できずにいる。