今となってはどうでもいいことなのだが、ある日こんなことがあった。
姉が「いいもんあるねん」と言いながら、どこからかビデオを持ち帰ってきた。
そのビデオにはラベルも何も貼られていなかった。
余談だが、我が家でビデオと呼ばれていたそれは、世間様では「カセットビデオ」や「VHS」、はたまた「ビデオテープ」と呼ばれていることに気づくのは数年後のことである。
当時はレンタルビデオ店で映画なんかを借りてきたら、
ビデオ屋、あるいは自宅でダビングをするのが当たり前であったため、
我が家には手書きのラベルはもちろんのこと、剥がれてしまって
なんの映画なのか、外見からは全くわからないものなんて多数あった。
当時の私は姉が持ち帰ったそのビデオも、それと同じく、映画かなんかなのだろうと思っていた。
それからしばらくしてからだった。
風邪を引いたのかどうかはわからないが、自宅で一人の時だった。
暇を持て余した私は、姉が持ち帰ってきたあのビデオの存在を思い出した。
何本かのビデオが突き刺さっている棚から、苦労して見つけたのを覚えている。
そのビデオを見つけた瞬間に、私は映画ではないことに気づいた。
映画のダビングならおそらく90分あるいは120分テープだ。なのに、それは軽かった。
リールに巻かれているテープの分量が短いのだ。おそらくは60分テープなのだろう。
いったい、何が録画されているのだろうかと思った私は、
隠されるようにして置かれていたビデオをデッキにすべりこませた。
しばらくして画面がうつる。
画面はずっとぼやけていた。
しばらくしたらだんだんピントが合ってくる。
黒い布の上に一枚の紙が置かれている。
その紙に何か文がタイピングされている。
手書きではない。
画面はその文にフォーカスをはじめる。
その文の文言は覚えていない。
ただ、漢字とカタカナで何かが書かれていたことは覚えている。