今となってはどうでもいいことだとは思う。
私の母は「子どもに手をあげて叱ったことはない」というのが誇りらしい。
でもそれはウソである。
母はヒステリーなところがあって、私は理路整然と叱られたことはない。
何が原因かまでは覚えていないが、あるとき母からひどく叱られたことがあった。
そのとき母は拭き掃除をしてる最中で、手には濡れた雑巾を持っていた。
例の如くヒステリー気味となり、感情のおもむくままに私を叱りつけた母は、
まるで鞭打つかのように、その濡れ雑巾を何度も私に叩きつけた。
数日間、体の何箇所かがミミズ腫れになり、
寝るのも辛かった記憶を私は持っている。
まだある。
これははっきりと覚えている。
世の中は「お受験」の時代。
子どもをいわゆる「私学」に入れるのが親のステータスだった時代。
送り迎えの最中だったろうか、車から降りた時に塾からの帰り道に漢字テストを見せた。
出来の悪い点数だった。
勉強をしていなかった私が悪い。
母は私に向かって「もんきちはなんでそんなに勉強をしないのか」
「そんな点数をとってはずかしくないのか」
と、私を叱咤した。
その時の母の手には車の鍵が握られていたのだが、
鍵をしまうことなく、そのまま左手を強く叩かれた。
ギザギザの鍵が私の手の甲に引っかかり、皮膚がえぐられて血が出た。
その傷跡は今でもある。
それでも母は誇らしげに「子どもに手をあげて叱ったことはない」と誇らしげに言う。
人間とは、やられたことはいつまでもおぼえている。
人間とは、やったことはすぐに忘れてしまう。
そんなものなのだろう。