今となってはどうでもいいことだが、宿泊を伴う行事の引率をしていたときだった。
夕食のために食事会場に数百人を集め、座らせなければならなかった。
こういうときの食事はバイキング形式と決まっている。
食事の後のスケジュールのこともあるので、迅速に生徒たちを着席させなければならなかったため、もともとが丁寧体で話をするキャラクターだった私は、
マイクを片手に
「各班ごとに席についてくださいね」
「全員がテーブルに座って挨拶してから取りにいっていただくので」
など、アナウンスをしていた。
日頃からの賜物だ。5分もしないうちに生徒たちは着席し、
スムーズな食事が可能となった。
私が教員席に戻ると、「もんきち君、ちょっとこっちへきなさい」と
引率団の一人である教頭が私を呼んだ。
「あのね、君ね、生徒に対して『いただく』とか『ください』とかの言葉遣いはだめなんだよ。そんなんだからね、君はね、ダメなんだよ」
と言われた。
私の何がダメなのかはわからない。むしろスムーズに着席したじゃないか。
そう思いながら、自分の意見をはっきりと伝えることが苦手な私は
「はぁ」とだけ返事をして自席へと戻った。
食事時間が終わり、明日のスケジュールを全員で確認する時間が来た。
別の教員がマイクを片手に
「ではしおりの○○ページをひらいてください」
「明日の集合は○○時にこの会場に班ごとに来ていただきます」
と、説明をしていた。
それを聞きながら私は「あー、あの人も呼ばれて怒られてしまうなぁ」と思っていた。
一通り説明が終わり、その教員が戻ってきても教頭に呼ばれることはなかった。
教頭は「いや、なかなかにわかりやすく整理された説明だったね」みたいなことを他の教員と話していた。
その日以降、私が教頭の指示に従うことはなかった。