今となってはどうでもいいことなのだが、幼稚園だったろうか、運動会の練習をしていた時だったと思う。
ひととおりダンスの練習が終わり、先生が何かをするために部屋を出ていった。
そのとき、隣にいたやつが私に
「なぁ、今日はもう終わりだと思うか」と聞いてきた。
私が部屋に置いてある時計をみると、いつもならそろそろおかえりの用意(終わりの会のことをそう呼んでいた)をする時間だった。
私は「いつもなら終わる時間だよね」とそいつに答えていたのだが、私の
「いつもなら終わる時間だ・・・」くらいのところで、急にそいつは立ち上がり、
両腕をぐるんぐるんと回しながら、異様なテンションで
「みんなーおかえりのよういだー」と言いながら部屋の中を駆け回った。
ダンスの練習がハードで疲れていたのだろう。他のやつらが我先にと帰る準備を始めたときに先生が部屋にもどってきて、
「なんでおかえりの用意しているの? まだダンスの練習続けるよ」と言った。
「だって、もんきち君がおかえりのよういって言ったもん」と、信じられないような言葉が聞こえてきた瞬間に、他のやつらが私のところに詰め寄ってきて
「なんでそんな嘘言うの」とか「適当なこと言わないで」とか、思い思いのことを口々に言ってきた。
そのころからだろうか。どんな場面でも私が自分の意見をはっきりといわず、無口になったのは。